今では春といえば桜ですが、平安時代までは「春の花は梅」でした。
まだ寒さが残る初春に咲き誇る梅の花は美しく、日本各地に観賞用の梅園(梅林)があります。
実を採取する梅は和歌山など、日本各地で大規模栽培されています。実は強い酸味があり、梅干し、梅ジュースなど様々な食品に加工します。梅干しも大きな南光梅から小梅までバリエーション豊かです。
梅の特徴
バラ科サクラ属の落葉高木です。
あんず、スモモの近縁種で、互いに交配しているため、種類は非常に多く500種類以上あると言われています。
大きく分けて「野梅系」「紅梅系」「豊後系」の3つに分類し、実を食べる品種は、大梅と小梅に大別されます。
多くの梅は自力で受粉することができません。梅の実を採取する品種のそばには別品種の梅の木を植え、ミツバチなどに受粉させます。
梅の花について
梅の花は2~4月ごろに、枝の1節ごとに一輪だけ咲きます。
桃のように枝いっぱいに花を咲かせませんが、等間隔に並ぶ可憐な花は雅な印象があり、目を楽しませてくれます。
花は5枚の花弁で、白や深い赤、ピンクなどの色があります。
葉はサクラに似た形で、周囲にギザギザの切り込みがあります。
通常は2月ごろから開花しますが、近年の異常気象で開花時期が大幅に変わることも。梅林に行く前には、現地の開花情報を確認したほうが良いでしょう。
酸っぱさについて
梅の実にはクエン酸が豊富に含まれています。
日本の伝統食の中でも酸っぱさの代名詞で、pH1の強酸性です。
優れた抗菌、殺菌効果もあります。腹痛がひどい時、すりおろした青梅を煮詰めた真っ黒い液体「梅肉エキス」を少量舐めると回復することがありますが、強い抗菌作用、解毒効果があると言われています。
梅の実を加工した漢方薬「烏梅」(うばい)には真菌、グラム陽性菌、グラム陰性の腸内細菌の増殖を抑制する効果があることが実証されています。
日本の産地
日本全国で梅の実を採取するための作付け面積は16,200ha、収穫量は111、400トンになります。(平成26年)
和歌山県が突出して多く、71、400トン収穫があります。
和歌山は温暖な気候で日当たりが良いため、梅やみかんの栽培が盛んです。山の急斜面に梅の木を植え、自然落下した完熟梅を急斜面の下で受け止めて収穫します。
未熟な青い実は梅酒や梅ジュースに、完熟した実は梅干しに加工するのが一般的です。ジャムや飴など、様々な加工品も開発されています。
梅の効果・効能について
梅の実にはクエン酸が豊富で、疲労物質と言われる乳酸の生成を防ぐ効果があります。マラソンなどスポーツ選手にもお勧めです。
クエン酸には動脈硬化を予防する作用があると言われ、悪玉コレステロール値が高い方が摂取すると改善が期待できます。
さらに、クエン酸にはダイエット効果も期待できます。クエン酸は体内でエネルギーを効率的に生み出すサポートをするため、代謝が上がり脂肪燃焼しやすい体を作ります。
非常に強い抗菌作用があり、黄色ブドウ球菌やO-157などの増殖を抑える働きがあります。
食中毒の発生を予防するので、ぜひ弁当には梅干しを入れましょう。
変わった効能に鎮痛作用もあります。梅干しの香り成分「ベンズアルデヒド」には痛みを抑える効果があります。
「こめかみに梅干しを貼ると頭痛が治る」という民間療法がありますが、本当に効果が期待できます。わざわざ頭に貼らなくても、梅干しの匂いをかぐだけで効果が期待できます。
注意
副作用
梅の実は薬効に優れていますが酸性が強く、食べ過ぎると胃腸を荒らします。
長期間食べ過ぎると歯を溶かすこともあります。梅干しは体に良いものですが、かつては薬用だったことを考えると過剰摂取は逆効果です。
多くても、1日に梅干し大1個程度に控えましょう。
話梅の食べ過ぎ
話梅は甘酸っぱくて美味しいですが、以外と塩分が多く含まれています。梅干しより塩分濃度が高いので、よほど汗をかく仕事でなければ毎日食べるのはお勧めできません。
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梅にまつわるエピソード
原産国といわれる中国では
梅は東アジア一帯の植物です。
原産国の一つ、中国では紀元前から酸味の調味料に利用され、塩に並ぶ世界最古の調味料と言われています。
古代中国では梅、蘭、竹、菊を「四君子」と呼び、人々に愛されていました。
梅は高潔さを表し、寒さの残る春先に優雅に咲き誇る姿が支持されています。ほかの花が咲く前に開花するため、孤高や強靱な精神を表すと言われていました。
美味しい味付けや、ちょうど良いバランスなどに用いる「塩梅(あんばい)」など、梅に纏わる言葉やことわざはたくさんあります。
日本での梅の歴史
日本の梅は古代に中国から移入したという説と、日本原産という説があります。現在のところ、中国から移入したという説を支持する学者が大半です。
移入されたのは西暦500年ごろと言われ、煙で燻した梅の実「烏梅」が伝わったとされます。
当初は花を楽しむことが主目的だったと考えられ、奈良時代から平安時代にかけては貴族が好んで庭に植えました。花を楽しみ、実は塩漬けなどに加工して薬用にしました。
「梅干し」が書物に記載されたのは、平安中期ごろ。やがて食用にもなり、武士の食卓に上がるようになります。携帯食としても利用され、息切れ防止薬「息合の薬」としても役立てていました。
梅干しは疲労回復効果が高いクエン酸が豊富なので、戦場などでは大いに役立ったでしょう。
菅原道真公が愛した花でもあり、主人を慕う梅の木が京都から大宰府まで追いかけていったという逸話が残っています。太宰府天満宮の御神木「飛梅」がこの梅だと言われ、日本各地に株分けしています。
道真公を祀る神社には、必ず梅が植えられています。
梅干しが広まったのは
一般に梅干しが普及したのは、江戸時代に入ってからです。江戸中期には「梅干し売り」の行商が誕生し、晩秋ごろに売り歩く姿が風物詩になりました。
明治になると流行病のコレラや赤痢を予防するとされ、梅干しが奨励されました。レーションにも梅干しは広く普及していました。
現在、自衛隊では乾燥させた梅干しと紫蘇を砕き、タブレット錠にした「冷結乾燥梅肉粒」が支給されています。発汗で失われるナトリウムを補給するためのもので、唾液をたくさん出して喉を潤すのにも使われます。
和歌山の名産となった背景
梅の木は痩せた土地でも育ちやすく、紀州藩(現・和歌山県)では痩せ地は税が免除されていました。
タックスフリーなことを利用して、農家は積極的に痩せ地に梅を栽培し、梅の実で副収入を得ていました。みかん栽培ではすでに有名だった紀州に、新たな名産品が生まれました。
当時はまだ品種改良が盛んでなく、「やぶ梅」という原種に近い梅が栽培されていました。
明治になり、軍の要請を受けて梅の栽培がますます盛んになりました。戦中末期にはサツマイモ栽培のために梅林を伐採せざるを得なくなりますが、戦後の高度成長期時代に再び増産に転じます。
この頃には現在も広く流通する品種「南高」「古城」が誕生し、収量も品質も大きく向上しました。
近年は中国産の安価な梅干しが市場を席巻し、国産梅は押され気味です。しかし健康志向や安全性、なにより美味しさを重視する消費者も多く、様々な加工品にして親しまれています。
「話梅」(ワームイ)
中国ではお茶受けに砂糖漬けの小梅「話梅」(ワームイ)が広く流通しています。どんな種類の中国茶にもよく合い、甘酸っぱさが癖になります。
中国産の話梅は添加物が多いのが難点ですが、台湾産の塩と黒砂糖だけで作ったものも市販されています。
プラムポックスウィルス
梅の木には深刻な感染症があります。2009年、東京都青梅市でプラムポックスウイルスという伝染病が発見され、大きな事件になりました。
プラムポックスウイルスに感染すると葉や実に斑が出来るため、梅の商品価値を失ってしまいます。人体には無害ですが、感染した梅はすべて切り、焼却処分するしかありません。
バラ科果樹全般が感染する病気ですが、梅に感染したことが確認されたのは日本が初めてです。
感染した梅の木や苗は直ちに処分し、感染を広げないことが唯一の対処法です。
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