胡椒はスパイスの代表格で、最も普及しているスパイスです。どこの家庭でも大抵1瓶はあるでしょう。
食材の味わいや風味を上げるため、かつては胡椒を狙った戦争なども起こりました。中世には金と同じ価値があると言われるほど珍重され、欲深い者たちが大航海時代を席巻しました。
今ではすっかりお馴染みの胡椒は、どのような植物でしょうか。
胡椒とは
特徴
コショウ科コショウ属の多年生つる植物です。
山葡萄のように小さな実をたくさん付け、これがスパイスの胡椒になります。
原産地はインド南西部のマラバール地方。現在はインドをはじめ、アジアの熱帯の国々や南米のブラジルで栽培しています。
種類について
胡椒は、収穫時期や加工で4つの種類に分けられます。
日本でよく見かけるのは黒胡椒と白胡椒ですが、他にもペルー料理などで使用する赤胡椒(ピンクペッパー)、タイやカンボジアなどで使う青胡椒(グリーンペッパー)があります。
ピンクペッパーは百貨店や専門店などで購入できます。
黒胡椒
黒胡椒は未熟な実を収穫し、長時間かけて乾燥させたもの。強い風味があり肉料理と相性が良く、世界中に普及しています。
白胡椒
白胡椒は完熟した実を収穫し、乾燥させてから水にひたして外皮をふやかし、取り除いたものです。(皮を取らないと赤胡椒になります)風味は黒胡椒に比べて風味はマイルドで、魚料理に向いていると言われています。
かつては日本でも黒胡椒に並び、広く普及していました。漢方薬で使われる胡椒も、白胡椒です。
青胡椒
青胡椒は未熟な実を採取したもので、現地では生で使うこともあります。
効果・効能
防腐作用
ぴりりと辛い味は、アルカロイドの一種ピペリンの働きです。防腐作用があり、肉の保存に役立ちます。
大航海時代には、貯蔵した肉に胡椒をたっぷりまぶしていました。
血流改善、消化促進、代謝アップ
摂取すると体温上昇を促進させ、血流を改善する働きがあります。冷え性の改善に効果が期待できます。
消化器官の活性化も促し、より消化を促す作用があります。
エネルギーを燃やす作用もあるため、代謝を上げてダイエットを促す効果もあると言われています。
発汗作用があるので、普段なかなか汗をかく機会がない時にもお勧めです。ピペリンは、黒胡椒に特に多く含まれます。
カリウムが豊富
栄養価も高く、カリウムが豊富に含まれています。
カリウムは体内の余計なナトリウムと結びつき、排出する働きがあります。塩分過多で高血圧の場合は、改善が期待できます。
減塩メニューに胡椒を入れると、味が良くなる上に余計な塩分を排出するため、さらに効果的です。
生薬として
漢方薬でも、胡椒(白胡椒)は生薬の一つ。
筋肉の凝りをほぐし、解熱、胃を温める、食中毒の軽減などに効果があると言われています。
利用方法と注意
食べ過ぎ注意
高い効能が期待できる胡椒ですが、食べ過ぎると胃腸を荒らし体調不良の原因になります。
ごく少量でも効果はあるので、過食しないようにしましょう。
ミル挽きがおすすめ
胡椒の香りは飛びやすいので、なるべくホールの胡椒を買い求め、ミル挽きすると良いでしょう。
ホールの胡椒の賞味期限は2年ほどと言われていますが、日本の多湿な環境では劣化しやすくなります。大袋で買わずに、できれば小袋をこまめに買うことをお勧めします。
胡椒餅が人気
ラーメンのスパイスや、胡椒をたっぷりまぶしたせんべいなど、日本でも馴染み深いスパイスです。
近年では台湾の屋台料理「胡椒餅」が人気で、中華街などで食べることもできます。胡椒餅は胡椒がたっぷり入った肉まんをオーブンで焼いた軽食で、現地では名店がいくつもあります。
肉まんを蒸さずに焼くことで、胡椒の風味とパンと肉まんの中間のような独特の触感が楽しめます。
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栽培について
胡椒は熱帯性の暑い気候を好むため、冬が寒い日本で栽培することは至難の業。
種から育てる場合は、温室などで長期間管理しないといけません。
つる性植物のため、支柱に巻き付かせて成長させます。
多年生植物のため、20年以上生存します。実が収穫できるまでに3年かかり、最盛期は7~8年、20年目くらいまで収穫できます。
非常に長生きな植物なので、生半可な気持ちで育てることはできません。植物栽培を極めたプロがコンパニオンプランツにするのが良いかもしれません。
最近は観葉植物として、立木性(つる状にならない)の胡椒も販売されています。
低温には非常に弱いため、冬には厳重な温度管理が必要です。
生産地のインド、インドネシアなどでは接ぎ木で育て、手早く多くの実を収穫します。
胡椒の歴史
古代インド、ギリシャ、ローマでは
原産国のインドでは紀元前から活用され、紀元前5世紀の叙情詩「ラーマーヤナ」で食事に胡椒を使う描写があります。
西洋では古代ギリシャの記録が最古とされ、紀元前4世紀には薬として使用されていました。西洋医学の父ヒポクラテスは、「婦人病には胡椒と蜂蜜、酢を混ぜて服用すると改善する」と記載しています。
胡椒の英語「pepper」の原型はラテン語の「peperi」から来ていますが、この名を名付けたのは古代ギリシャの植物学者、テオフラストスです。
古代ローマでも胡椒はよく使われていました。
4世紀ごろには肉に胡椒を振って食べる、という現在と同じ使い方が確立しました。甘い蜂蜜にも胡椒を混ぜて食べていたことが記録されています。
古代ローマ人はどん欲にスパイスを求めました。インドのマラマル海岸まで進出し、物資の一つに胡椒を貯蔵していました。
胡椒をめぐる戦争
中世になると、アラブ人が胡椒の仲介を行いました。アラビア海からインドに渡って胡椒を買い付け、ベネツィアの商人を介して欧州に売っていました。
やがて、ベネツィア人は十字軍を結成しコンスタンチノーブルを襲撃し、アラブ人の胡椒の販路を自身のものにしました。
十字軍の遠征は宗教戦争と言われますが、実体は胡椒などの販路の略奪という面もあります。
大航海時代の幕開け
ヨーロッパにはスパイスになる植物がほとんどありません。寒冷なヨーロッパで育つスパイスはトウガラシくらいで、胡椒やシナモン、ナツメグなどは熱帯地域でしか栽培できません。
胡椒などのスパイスには、肉の腐敗を防ぎ風味を良くする働きがあります。肉食が盛んなヨーロッパ人にとって、喉から手が出るほど欲しい品物でした。
しかし、ベネツィアに胡椒の輸入ルートを押さえられ、他の国はおもしろくありません。欧州各国で胡椒を得るルートを探す運動が起こりました。これが大航海時代です。
東インド会社
現在のように胡椒の価格が安くなったのは、イギリスやオランダが作った東インド会社の設立からです。
インド各地で胡椒を大量に作らせたため、価格競争が起こり価格が下落しました。
アメリカ人がスマトラ島で胡椒の木を発見したことで、アメリカも胡椒栽培に着手しました。
現在のように、どこでも安価で胡椒を買えるのは、積極的に各国で大規模に栽培しているためです。
日本では
日本には奈良時代に、中国から輸入されました。正倉院には貴重な薬として、胡椒、シナモン、クローブ、高麗人参などが保管されています。
「胡椒」という名前の由来は古代中国です。「胡」とは中国から見て西、北の異民族のことを指します。
南方貿易などで胡椒を仕入れ、江戸時代には一般的に普及した地域もあります。
曾根崎心中などで有名な上方(大阪)の浄瑠璃作家、近松門左衛門の「大経師昔歴」には、妻のヤキモチとうどんには胡椒がお定まり、という台詞があります。
江戸後期に入り、トウガラシが輸入されるまでは、うどんに胡椒を振りかけていました。
そのため、トウガラシを「胡椒」と呼ぶ地域もあります。今でも柚子胡椒などに、その名残が残っています。
胡椒の親戚「ヒハツ」
学名のPiperiは、もとは長胡椒と呼ばれる胡椒の親戚、ヒハツを指す言葉でした。
胡椒の仲間なので味や成分は同じですが、より辛みが強いのが特徴です。古代から中世までは、胡椒とヒハツは混同されていました。
大航海時代に胡椒の栽培が確立したため、ヒハツが強く求められることはなくなりました。現在はヒハツエキスが育毛剤の成分などに使われています。
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