小さなリンゴのような味わいのナツメ(棗)は、かつては日本でもよく食べられていた果物でした。今では食べる習慣も廃れてしまいましたが、昔は身近な存在でした。
しかし中国では女性の特効薬として重宝され、最近は日本でも女性の間で徐々にブームの兆しがあります。
ナツメとはどのような植物でしょうか。
特徴
クロウメモドキ科の落葉高木です。病気に強く簡単に育つので、日本では庭木として人気が高い植物です。
棗の意味は、夏に芽が出る(=夏芽)からと言われています。漢字では「棗」と書きます。
中国では乾燥させた実を「大棗」(たいそう)と呼び、中医薬の生薬やお茶として使われています。
生のナツメを入手するのは、日本では庭で育てている人から分けてもらうしかありません。(地方によってはナツメを栽培する農家もいます)
流通しているナツメはほとんどドライフルーツです。乾燥させただけのナツメと、砂糖で煮込んでそのまま食べられるナツメがあります。
最近流行しているナツメヤシ(デーツ)と混同しがちですが、全く異なる植物です。ナツメヤシの名前の由来は「ナツメのようなヤシ」から来ました。
なお、英語ではナツメのことを「Chinese date」(チャイニーズデーツ)、中国のナツメヤシと呼んでいます。
効果・効能
良質な睡眠に誘うオレアミドという成分が含まれています。オレアミドは脳の髄液に蓄積され、眠気を起こすと考えられています。
オレアミドは、うつや睡眠生涯などの治療薬として使われることもある成分です。
栄養
栄養価も豊富で、鉄分、カルシウム、カリウム、マグネシウムが多く、ビタミンB群、サポニン、食物繊維なども含まれています。
特に注目すべき栄養価は、パテントン酸です。ビタミンB5とも言われるパテントン酸はエネルギー代謝に関わり、神経細胞の合成、神経伝達などに必要な栄養です。
副腎皮質ホルモンの合成を促進し、ストレスに耐える体を作ることも期待できます。
もともとパテントン酸は腸内細菌が合成する成分ですが、腸内バランスが悪いと十分に合成できません。暴飲暴食やアルコールやコーヒーを飲み続けていると腸内のバランスを崩すと言われています。
これらの習慣がある人は、習慣を改善すると同時にナツメを食べる習慣を付けると良いかもしれません。
鉄分は貧血改善に、カルシウムは骨の主成分で、精神安定にも欠かせません。マグネシウムは糖尿病予防や、脳内物質セロトニンの生成に必要な栄養素です。
これらを総合すると、ナツメはストレス耐性を上げ、健全な心を築く助けになることが期待できるフルーツです。
さらに、血液循環を改善するビタミンPやサポニンが豊富で、血行改善にも効果が期待できます。女性に特に多い冷え性に効果的です。
葉酸が多く、妊婦さんにもお勧めしたい食品です。
利用方法と注意
乾燥ナツメは固いので、そのまま食べると口の中を怪我することがあります。最近は食べやすい柔らかいナツメもあるので、毎日食べたいならそのような種類を選ぶと良いでしょう。
固いナツメは1袋1リットルくらいの水で30分ほど茹で、そのまま冷ましたものを食べると安心です。
ナツメは現在、ほとんどが中国産です。わずかに国産の乾燥ナツメも通販されているので、気になる方は国産ナツメを取り寄せたほうが良いでしょう。
乾燥ナツメの中には漂白剤などを使ったものもあります。必ず乾燥させただけのナツメを取り寄せましょう。
ナツメ茶
簡単なレシピに「なつめ茶」があります。煮込んだナツメの煮汁をそのまま使えるので、ナツメを煮た後に作ると効果的です。
乾燥ナツメを数粒入れ、少量の湯で煮ても効果があります。
材料
- なつめの煮汁 150ccくらい
- ショウガの絞り汁 適量
- 蜂蜜 小さじ1以上
ナツメの煮汁を暖め、ショウガと蜂蜜を加えれば完成です。味は薄く、特別に美味しいとは感じないかもしれませんが、精神安定や冷えに効果があると言われています。
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栽培について
原産地は西アジアと言われ、現在でもテュルク系(ウイグル)の人々が大々的に栽培しています。現在でもこの地域のナツメは高級品として人気があり、品質も良いとされています。
熱帯から亜熱帯で自生しますが寒さにも強く、日本ならどこでも育てることができます。
育て方
育て方は苗を購入し、庭に植える方法がほとんどです。(鉢植えでも可能)
30cmくらいに切り返し、12月から翌3月に植え付けます。乾燥には強い植物なので、土が乾いたら水を与えましょう。じめじめした環境は苦手なので、水はけの良い環境で育てます。
自家受粉できるので、1本で育てても実は収穫できます。
実を実らせるまでには3年ほどかかります。いよいよ実が付き始めたころから摘果を行います。
1つの枝に姿の良い実を3~4個残し、あとは摘み取ってしまいます。摘果を行わないとエネルギーを使い果たして翌年に実を付けなくなるので、注意が必要です。
9~10月ごろになると、実が茶褐色に色づきます。この時点で収穫すると甘いナツメが楽しめます。
夏ごろの、まだ青いナツメはリンゴのような爽やかな味わいがあり、こちらも美味しく頂けます。
エピソード
生薬・薬膳料理に欠かせない
中国では非常に古い時代から利用されていた作物で、紀元前8000年ごろの遺跡からナツメの栽培された痕跡が発掘されています。
中医学最古の書「神農本草経」にも「大棗」の名で記載され、常用すると身を軽くし、長寿が得られる食材と紹介されています。
「1日3粒のナツメを食べると老いを防ぐ」とも言われ、不老長寿の妙薬として宮廷料理に欠かせないものでした。
古代中国ではナツメ、桃、スモモ、あんず、栗の5種類を五臓を養う果樹と考え、特に重宝されていました。
現在も薬膳料理に欠かせない食材です。お茶受けに、甘く味付けをしたナツメを食べることもあります。
中医学の生薬では、乾燥させたナツメを「大棗」、ナツメの種を「酸棗仁」(さんそうにん)と呼び、それぞれ異なる働きが期待できると考えられています。
大棗は鎮静作用や強壮作用があり、特に女性の体調を整える効果が高いと言われています。葛根湯の生薬の一つなので、多くの人が一度は口にしたことがあるかもしれません。
酸棗仁は酸味があり、催眠作用があると言われています。
日本での歴史
日本でナツメが登場する最古の文献は、万葉集です。そのため、7世紀より前には既に日本に輸入されていたと考えられています。
平安時代には薬の生薬として使用され、平安時代の医学書「本草和名」にも乾燥ナツメについての記述が残っています。
茶道の道具で、抹茶入れの容器を「なつめ」と呼びますが、ナツメの実に姿が似ていることから名付けられました。昔は日本でも馴染み深い作物だったことを伺わせます。
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